ピストンクラブについて

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4. ルール無視の限界を超越するオリジナル楽譜――楽譜が楽器編成を作り、楽器編成が人間を鍛える・・・

ラッパ吹きだけが8人もいる。しかも、当初我々が所持していた楽器は、ごくふつうの Bフラット管のトランペット、それに、2本程度のピッコロトランペット。全く収拾がつかないというのは容易にご想像いただけると思います。その想像の通り、第1回はとにかく、とりあえすやったぞ、というコンサートでした。我々が若かった(というか幼かった)というのもあるでしょう。しかし、そんなコンサートの聴衆の中に、ひとりの重要人物がいました。当時トロンボーン奏者、現バストランペット奏者の野口洋隆です。彼は後年そのコンサートについて、「おお、これぞエンターテインメント、と思った」と述懐しています。なぜ「人の輪を大切にする」トロンボーン奏者の彼が我々に興味を示したのか。それは彼がはみ出し者だったからかもしれません。そうして、とある楽器屋で店晒しになっていた安物バストランペット7万円也(一応新品)を購入した彼は、人の輪を捨て、めでたくラッパ吹きの仲間入りをすることになったのでした。

我々にとって、のどから十本くらい手が出そうなくらいほしかった低音域が、思わぬかたちで手にはいることになりました。バスを加えたトランペットアンサンブルは、安定感が1万倍くらい増して、フツーの方にも何とかきいていただけるくらいの音色になりました。それからのち我々は、自分たちのために楽譜を書くということに対して、より積極的になっていったのです。

そしてその後・・・。

 ・バストランペット(Bフラット)2本
 ・アルトトランペット(F)
 ・アルトトランペット(Eフラット)
 ・アルトホルン(Eフラット)
 ・ビューグル(Gアルト)
 ・スライドトランペット(Bフラット)
 ・ポストホルン(Bフラット)
 ・フリューゲルホルン 4本くらい
 ・ピッコロトランペット 4本くらい?

その他、Eフラット管やロータリー式トランペットなど、さらには数々の小物打楽器、果てはリコーダーまで、全部集めたらどのくらいになるのか想像もつかないくらいの楽器を我々は購入しました。これらの楽器によって、我々のオリジナル楽譜は、ずいぶんと表現の幅が豊かになりました。しかし、本当の自慢は、楽器の本数ではありません。ほんとうに重要なのは、これらのうちかなりの部分が、安物楽器だという事実です(楽譜の話とは関係なくなっちゃうんだけど書かせてください)。例を挙げましょう。先のバストランペット新古品7万円のほかに、

 ・アルトホルン:6万円、中古。
 ・Fアルトトランペット:ロータリートランペットにおまけで付いてきたので値段不明。
 ・Eフラットアルトトランペット:中古品をオークションで落札。
 ・ビューグル:ピストンの死んだ中古品、?万円
 ・ポストホルン:8万円。
 ・スライドトランペット:3万円。

アンサンブルを作る上で重要になる低音楽器のかなりの部分が、中古品の安物である、ということが特筆されます。我々のアンサンブルのサウンドは、まさにこういった安っぽい楽器によって作り出されているのです。

安い楽器は音色も安い。これは事実。また、安い楽器は音程も安い。これも事実。音域の制限を何とかクリアしたと思ったら、今度はこういった難問が降りかかってきたのでした。しかし、これを積極的にとらえれば、我々の耳を鍛える絶好の機会であると言えないこともありません。そのようにして、我々は日々、楽器によって人格を変えられてしまう恐怖におののきつつも、なんとかその楽器を手なずけようと練習に励んでいるのです。

そして結果的に、これらの安物楽器たちは、メンバーそれぞれの個性をより強調する方向に働くことになりました。楽器が人格を変え、人格がより適した楽器を欲する。その(悪)循環によって、我々が書く楽譜のそれぞれのパートは、あらかじめ想定された特定のメンバー以外には演奏できないものとなっていきました。たとえば、毎回のコンサートで演奏しているオリジナルメドレーシリーズ。これは、特定のテーマにしたがって、クラシックからジャズ、演歌、民謡、アイドル系、ニューミュージックまで、さまざまな曲を集めて一曲にまとめる、なんでもありのごった煮メドレーです。その中でメンバーは全員がソロを吹くことになっているのですが、そのソロは、各メンバーの特性・習性が最大限発揮できるような選曲と編曲になっています。また、メドレー以外のアンサンブルでも、各メンバーの個性が十分生かされるように工夫を凝らしています。幸いにしてピストンクラブのコンサートは「楽しい」(決して「うまい」ではない)という評価をいただくことが多いのですが、こういった評価は、各メンバーの個性がよく見えることのひとつの結果なのだろうと思っています。

さて、ではこの項のさいごに、我々を特徴づけるキーワードをさらにいくつか加えておくことにしましょう。

 ・新しもの好きである
 ・金銭感覚が欠如している、あるいは、借金することに対して抵抗がない
 ・チープ指向である


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