連載エッセイ「日々の徒然」

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◎第25回(2002/7/10)

録音

和気 愛仁
先日あるホームセンターに行ったとき、ペットコーナーを覗いていてでっくわした九官鳥がめちゃめちゃケッサクだった。

最初はお約束どおり、

「おはよー」

うんうん、九官鳥だねえ。典型的。そう思ってしばらく見ていたら。

「おれ○※×▲÷……」

ちょっと聞き取れなかった。でもすぐにまた同じことを繰り返す。

「おれ○※×▲÷……」

まったく同じ音(「声」ではなく)で、やはり聞き取れない。その見事な録音再生能力。
さらに、

「おーい、おかーさん。おーい」

わはは。きっと九官鳥を妻に見せんがために、こうやって妻を呼んだ客がいたのであろう(どうでもいいが、こういうとき単純に喜ぶのは決まって男の方である)。オレはだんだんはまってしまい、その場を動けなくなる。

九官鳥君は私が気に入ったのがわかったのか、それとも私を気に入ってくれたのか、ここから出血大サービスが始った。

「ぅわっはっはっはっっっ」

これがまた、つられて笑ってしまうんだな。笑い袋みたいにまったく同じ笑い方を繰り返す。それがやたらとおかしい。彼にとっては「おれ○※×▲÷……」も「ぅわっはっはっはっっっ」も意味のないただの音声なのであるが、それをまじめに繰り返すのがまた笑いを誘う。
さらに。

「ごほっ、ごほっ、ごほっ」

これはすごかった。ほんとの咳そのまんまの音がした。文字でうまく音を表せないのが悔しい。
ここまで、数々のレパートリーを繰りかえす九官鳥君。さらにさらに。

「わん!」

「人間が犬のまねをしているまね」ではない。「犬が鳴き声として発する音声」そのままだ(ペットコーナーだけに、犬も隣のかごにいるのだよ)。驚いた。こんな「音」も出るんだねえ。
続けて、

「ぐえっ、ぐげっげっげっげっ」

なんの音かと思ったら、となりにいたでっかいオウムの鳴き声だった。
このころにはもう九官鳥君大ハッスルしちゃって、

「ごほっ、ごほっ、ごほっ」
「おーい、おかーさん。おーい」
「ぅわっはっはっはっっっ」
「わん!」
「おれ○※×▲÷……」
「ぅわっはっはっはっっっ」
「ごほっ、ごほっ、ごほっ」
「おーい、おかーさん。おーい」
「わん!」
「ぐえっ、ぐげっげっげっげっ」
……

と、数々の傑作レパートリーを延々と聞かせてくれた。本気でつれて帰りたくなった。

子供みたいに九官鳥にずっと張り付いているオレにあきれた嫁さんは、さっさとどっかに行ってしまい、びくびくしながら広い店内を探して回ったのでありました。

ピストンクラブメーリングリストより転載。



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