連載エッセイ「日々の徒然」

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◎第6回(2000/9/30)

お姉ちゃん

高橋 香緒里
ある日、残業を終えて遅い帰宅をしたところ、留守電にメッセージが入っていました。再生すると、若い女の子の声で

「もしもし?お姉ちゃん?いないの?また電話するー。」

と入っていました。私は二人姉妹の妹のほうです。自分に妹がいるとは聞いていませんので、まあまちがい電話なんだなと思いつつ、その日はそのまま寝ました。

2日目。その日も遅い帰宅をしました。するとまた、留守電にメッセージが入っています。もしやと思いながら再生すると、またしても昨日の妹でした。それも2件入っていました。

「もしもし?お姉ちゃんまたいないの?また電話するー。」
「もしもし?お姉ちゃん?まだ帰ってないのー?もーカレシんとこでも行ってんじゃないのー?もー。また電話するねー。」

なんだとう。あたしゃ仕事で遅くなってんだよ。とちょっとムっとしながらも、どうやらこの妹、完全に勘違いしているらしい。うちの留守電のメッセージにはちゃんと「はい、タカハシです」と入っているので、この姉妹もタカハシ家なんだろうか。少々気にしつつ、その日もそのまま寝ました。

3日目。またしても遅い帰宅。やっぱり留守電に入っています。しかも、今回は妹ではありませんでした。

「あ、おかあさんです。なんか忙しいみたいねー。14日のこと、どうするかと思って...。また、かけます。じゃあね。」

おいおい、14日ってなんだよ。あたしゃアンタのお姉ちゃんじゃないよ。声で気づけよ。そう思いつつ、もう一度かかってきたらちゃんと誤解を解かねば、と、けっこう遅くまで起きて待っていました。しかし、その日はもうかかってきませんでした。

4日目。昼間から勘違い一家のことを気にしてはいたのですが、その週は忙しかったので、やっぱり帰宅は深夜に。そしてやっぱり留守電が。今日はとうとう、お父さんからかかってきてしまいました。

「おとうさんです。えー、14日の件ですが、2時ごろつきますので、よろしく。あんまり遊んでばっかりいるなよー。じゃあ。」

えっ。お父さん、こっちに来るの?いや、こっちっていったいどこだよ。14日っていったら明日だろ。私は困ってしまいました。どうも、妹が両親に入れ知恵をしたようで、お姉ちゃんは遊び人ということにされてしまっているし...お姉ちゃんもお姉ちゃんで、なんで実家に連絡しないのさ。アンタもしかして本当に遊び人なんじゃないの。私は電話のそばから離れられませんでした。だいたいなんで私がこんなに気をもまにゃならんのだ...なんか腹が立つ...。

次の日は休日でした。私はぜひとも、この一家の誤解を解かなければ、と思ったのですが、1日中練習があったので、家で電話に出ることができませんでした。早朝かかってこないかと期待しましたが、かかってこないまま出かける時間になってしまいました。

夜、帰宅すると、あんのじょう、留守電が入ってました。それも5件も...

「あ、お姉ちゃん?まだいないの。いまから出るんだけど...」(妹)
「あ、お姉ちゃん?おかあさん。○時○分の電車に乗るから。△ちゃん(妹か?)の携帯に電話ちょうだい。」(母)
「おとうさんです。さっき、新宿につきました。いま2時20分ぐらいです。えー...帰ったら電話ください。」(父)
「おとうさんです。いま、4時です。お姉ちゃんいませんかー。」(父)
「お姉ちゃん?もう、家帰ってきちゃったよ。おとうさん怒ってるから。じゃあね。」(妹)

そこで留守電は終わっていました。最後のメッセージは、私が帰宅する30分前でした。次の日からは、もうかかってきませんでした。

それから3年ほどたちますが、連続ドラマが打ち切りになってしまったような、推理小説が作者死亡で未完のまま終わってしまったような、とにかく煮え切らない気持ちです。
果たして、お姉ちゃんは家族に会えたのか?連絡はついたのか?家族にはヒビが入ったままなのか?お父さんの怒りは解けたのか?...結末が知りたい...。

最後に一言。お姉ちゃん、携帯を買えーー!!


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