ピストンクラブについて

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3. 欠陥だらけの可能性に満ちた楽器編成

楽器編成。トランペット、トランペット、トランペット・・・以上。

それではあんまりです。が、それが現実でもあります。我々を常に苦しめ続けたのは、この楽器編成の制約の大きさでした。

「トランペットは花形楽器である」という認識は、おそらくその音色・音量によるところが大きいでしょう。演奏するときの姿勢というのもあるかもしれません。しかし、トランペットは、他の楽器のみなさんのサポートがあるからこそ、オーケストラの中でも花形でいられるわけです。全員が花形なら、それはもはや花形ではない。あるいは、たまに出てくるから花形は花形である。オーケストラを飛び出すまで、我々はそのことに気づきませんでした。本当の我々は、欠陥だらけだったのです。

欠陥1. 音域が非常に狭い。

これは、2つの意味を持っています。
ひとつには、単純に、低い音が出ない。トランペットが通常使う音域は、人間にとって聴覚上心地よい音域よりもはるかに上です。したがって、聞き続けると非常に疲れてきます。
もうひとつには、実は高い音もあまり出ない。たとえばフルートなんて楽器は「優しい音色ですき!」って方も多いでしょうが、トランペットの出すことができる高音域は、フルートの出すことができる高音域よりも1オクターブ以上も下です。

欠陥2. 持久力に問題ありすぎ。

たとえばバイオリンなら、40分のシンフォニーの間ずっと弾きっぱなしということもまったく珍しくありません。しかし我々がひとりで演奏し続けられるのは、5分かそこらです(そんなつらいこと試したこともないけど)。あっという間に「バテ」がやってきます。そして、一度バテてしまうと、酒をかっくらって一晩寝ないかぎりは、二度と演奏できません。これでは1曲通して演奏することもできません。

欠陥3. 協調性がない。したがってアンサンブルがメチャメチャ。

オレが先頭だぁー!って、そういう譜面ばっかり吹かされ続けると、だんだん楽譜に(そして楽器に)人間の方が変えられていってしまう。楽器が人格を変える、という恐ろしい話は、現実にあると思います。生まれたときは清く正しく美しく、世界を救うべき人間として生まれた我々も、たまたまトランペットという悪魔の楽器を手にしたがために、いつの間にか人間社会を崩壊させる悪魔の手先となり果てていたのでした。

こんな欠陥だらけの楽器編成に、音楽を提供してやろうという奇特な作曲家は、ほとんどいませんでした。市販の楽譜は、ほとんど第1回演奏会のために使い尽くしてしまい、あとは超現代作品が作曲されるのを待つだけ、という状況です。そこで我々は仕方なく、自らのために、楽譜を書く、ということを学習することになるのです。


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