連載エッセイ「日々の徒然」

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◎第16回(2000/12/5)

ピストンクラブスタイル、世に出る!?

高橋 香緒里
先日、一度にCDを8枚も買ってしまった。そのうちの1枚が、エリック・ミヤシロの新譜「Kick Up」。

全編エリックのソロをフィーチュアしたビッグバンドものである。銀座の山野楽器で「先着11名様に収録曲のサイン入りフルスコア進呈」のエサにつられてしまい、「なにっ!フルバンドのスコアだとう?まさかアレンジャーの手書きのコピーかっ?これはゲットせねば!」と速攻レジに走ってしまった。実はあまり中身には期待していなかった、というか、「ほどほどにはOKだろう」ぐらいの期待度だったのであるが…

聞いてびっくり。9トラック目に注目だ!なんと、ピストンクラブと全く同じ編成の曲があったんである。

バストランペット、トランペット、フリューゲル、ピッコロ、パーカッション(どうも打ち込みらしい。ドラムスは無し)。まさに、そのまんまピストンではないか。ジャズのCDでバストランペットやピッコロが登場した例が今まであるだろうか?寡聞にして私は聞いたことが無い。ライナーノーツによれば、「一度こういう編成でレコーディングしてみたかった」んだそうである。ということは、我々は日本を代表するトランペッターよりも一歩先に行っていたということか……いや、もちろん冗談です(^^;。

ちなみに、すべてのパートをエリック一人で多重録音したとある。バストランペットからピッコロまで。弊団の桜井新みたいである(あ、逆か!)

ところでこの曲、ピッコロトランペットの音が非常に良い。柔らかく、かつハリのある音だ。そしてコクのあるビブラート。普段からアマチュア音楽界で耳にしているような、「耳にやさしくない」音とはえらい違いだ。感動。

ピストン心をくすぐられたのはそれだけではない。

ジャケットには、エリックが使用しているとみられる楽器の写真がずらっと並んでいる。普通のB管が(たぶん)11本、フリューゲルが(たぶん)2本、ピッコロが2本、スライドトランペットらしきものが 1本、バルブトロンボーン(え!?)が1本、ガレスピーモデルらしきものが1本、「メドゥーサ」なる楽器が1本。

ガレスピーモデルらしきものは、例によってベルが上向きになってるんだが、なぜかチューニングスライドのところが、トロンボーンのスライド状になっているように見えるのは気のせいか?チューニングはフリューゲル式にマウスパイプで行う作りのようだ。曽我部清典氏考案のゼヒュロスを思い起こさせる楽器である。

「メドゥーサ」は、なんだかよくわからない。ベルが3個ついてて、ピストンが2つ余分に(計5個)ついている。余分なピストンは、2つのベルに直結しているようで、3つのベルに違うミュートをつけて、左手で2つの余分なピストンを押さえている写真も載っているので、オープンとミュート2種類の音を瞬時に切り替えられるという効果があるのかも。写真が小さくて肝心なところが見えないのが残念。

あと、写真は出てないのだが、ライナーノーツに、マウスパイプにピックアップをつけた electric trumpet を使った、と書いてある。ソロに同期して、エフェクトのかかったエレキな音が同時に「びよよぃ〜ん」と重なるさまは非常におもしろい。ちょっと椎名林檎の「エレキギターもどきボーカル」っぽいかも。コレってウチでも真似できませんかねえ、高木さん?

それにしても、これだけあると(B管がやたら多い。それに全部違うタイプのマウスピースがついている)、ついつい野口説(=ラッパ吹きは楽器やマウスピースをとっかえひっかえ…)を思い出して笑ってしまう。私は全く楽器オタクのケがないにもかかわらず、けっこう身を乗り出してしまったのだから、真性の楽器オタクにはたまらんのではないだろうか。ライナーに、使用楽器の型番が載っている点もポイント高い。

と、いうように、このCDはピストン的に非常にそそられる1枚であった。もちろん、一ジャズファンとしても聴き応え十分。アレンジもバンドもソロも、ドライブ感いっぱいなんだけど非常によくコントロールされていて決して暴走せず、すばらしいアンサンブルを聴かせてくれる。特に、数年前に車のCMで使われて以来ずーっと気になっていた、アメリカ国家のアレンジ物が、フルバージョンで聴けたのは嬉しいこと。いやー、良い買い物をしたなあ。

ちなみに先着プレゼントのスコアは、アルバムラストの締めの曲(30秒ほど)のもので、見開き 2ページ、 21小節の印刷譜だった(ぺらんぺらんだった…)。それでも、フルバンドスコアを見たことがない私にとっては、「おお、このように書くと、このように演奏してくれるわけか」と興味引かれることしきりであった。


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