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「在庫」の話野口 洋隆
ピストンで云う「在庫」とは、「書きかけの曲」のことです。もしくは、書き上がっているのですが、何らかの理由でまだ発表をしていない曲のことです。前者は、会社用語(メーカー)で云うところの「仕掛」であり、後者は「製品在庫」にあたります。さて、ピストンにはいくつかの在庫があります。なぜ、発表されずに「在庫」となってしまうのでしょうか? 通常の理由は、次のようなものです。 ●C氏が演奏会を想定して、大編成の曲を書いた。しかし次の演奏会のプログラム構成的に、この曲を入れる余地はもうなく、次の機会にまわそうということになった。このような場合はいつでも出せる「製品在庫」というありがたい存在になるのですが、次のような場合には、そう簡単にはいきません。 ●E氏が演奏会を想定して、大編成の曲を書いた。しかし練習で音を出してみると、数々の演奏不能箇所があり、手直しが必要ということになった。この場合には、「仕掛」ということになります。あまりに手直しが大変ですと、手つかずになり「長期在庫」化します。場合によっては「不良在庫」にあたります。 稀にはこんな在庫もあります。云うならば、帳簿には記載があるのですが、実体がない、すなわち棚卸減=空欠となってしまったものです。 ●W氏が演奏会を想定して、大編成の曲を書いていた。しかも「語り」つきであった。演奏実現のためには多難が予想されたが、大きな企画であり、みんな大きな期待をかけていた。しかし、完成を待たずにハードディスクがクラッシュし、データが消滅した。私自身も何曲かピストンのために書いていますが、なかには音出し後手直しをしたものや、「在庫」化してお蔵入りになっている曲があります。たとえば第7回の演奏会で取り上げた「Fiddle Faddle」は、最初4重奏にしていたのですが、音域およびスタミナ上トップがやっぱりキツイと判断され、急遽ピッコロを加えた5重奏にしました。また、8重奏でバッハのヴァイオリンのためのドッペルコンチェルトを書いているのですが、これなどは現在のところ“演奏不能”の烙印を押されたままになっています。 私がピストンのために書いた最初の曲は何だったかと申しますと、第2回演奏会のアンコールでやった『Bitter Sweet Samba』(ニッポン放送“オールナイト・ニッポン”のテーマ曲)ということになっています。ところが、実はピストンの人にも見せたことはないのですが、これに先立って書いた幻の曲があるのです。私が、ピストンクラブにはいる前で、まだバストランペットを手にする前の話です。ピストンの第1回演奏会のビデオを見て刺激を受け、生まれて初めてトランペット・アンサンブルの曲を書こうと思って書いたものなのです。想定としてはピストンクラブを想定しているのですが、まだバストランペットを入れていない編成となっています。すなわち、B♭管6重奏という非常にオーソドックスな編成になっています。 その曲はいったい何か? ああ、恥ずかしい。恥ずかしくてとても云えません。私はピアノも弾けませんし、当時は楽譜は手書きでしたので、どんな音がするかも聞いていません。※※※※※の○○○○という曲とだけ書いておきましょう。 実は、この幻の曲というのはまだあって、それは高校時代に初めて書いた、金管アンサンブルの曲です。金管何重奏を書こうと思って書いたのではなく、ブラバンの同期の編成でやるという想定のものに書いたものでした。思えばこの当時から演奏者を想定して書くという、“ピストンチック”な編曲を志していたのでした。これも、当時からすでに恥ずかしくて、結局日の目を見ずにいるのでした。ああ、これも曲名を云うことができません。『○の○○○○○○を○○○○』とだけ書いておきましょう。 そのほかにも、大学時代、ガンマブラスがNABEOに出るとき、トラでガンマに出たことがあり、それに刺激を受けて、PJBEスタイルの金管10重奏を書いたことがあります。畏れ多くも、ガンマのサウンドを想定して、名ホルニストのH氏の存在なども考慮しながら、コープランドの『エル・サロン・メヒコ』を書いたのでした。ガンマの蔵書リストには載っているのですが、果たしてこれはどうなったのでしょうか。かなり演奏不能っぽいものでありましたが、既に十年以上前のことなので、記憶が薄れております。 会社もときどき在庫の整理をしなければならないように、ピストンもたまには在庫の整理が必要になってきました。今度の演奏会では、ぜひ『○○○ン○』とかグ○ー○とか、何とかしたいものですね。 在庫のお話でした。 |
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