連載エッセイ「日々の徒然」

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◎第18回(2001/4/30)

すけきよ(その1)

高橋 香緒里
みなさんは「すけきよ」をご存知だろうか。

「犬神家の一族」という怖い小説に出てくる登場人物である。テレビドラマ化、映画化もされているので、ご存知の方も多いことと思う。簡単に説明すると、「すけきよ」というのは、物語の中で、湖にさかさまに突き刺さって足だけ出ているという状態で殺されてしまう役である。非常に怖いシーンなのだが、インパクトがありすぎて逆に笑いを誘うシーンとしても有名であり、一部では、上下さかさまにひっくりかえった状態を「すけきよ状態」などと言う。

この稿では、私の身辺で起こった「すけきよ状態」について書いてみたいが、「すけきよ」のあの姿を想像できない人、想像できても笑えないという真面目な人には、あまりおもしろくないであろうことをあらかじめお断りしておく。

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小学校3年ぐらいの夏休みのこと。

ある暑い日、私は隣家の兄弟と一緒に、自家製プールで水遊びをしていた。自家製プールというのは、隣家をリフォームしたときにはずして取ってあったというバスタブを庭にセッティングし、水を満たしただけの簡単なものであったが、私たちはそれで存分に楽しんでいた。

そのうち、一人が「いちごフロートごっこ」なるものを思いつき、やろうと言い出した。一体何の遊びなのかと聞いてみると、浮き輪で水面に浮き、上体と足を泡の外に出して、泡の上に乗っかっている気分を味わおうというものだった(当時好物だったカップアイス「いちごフロート」のCMに、そのような映像が出ていたところからの連想と思われる)。私はその提案に魅力を感じたので、家からシャンプーのボトルと浮き輪を持ち出してきて、バスタブの中にシャンプーの中身を全部空けて、泡を立てた。そして、浮き輪を膨らまし、それを胴体に装着し、バスタブに入った。

だが、浮き輪の穴にお尻だけを入れて座っているような状態にすればよかったものを、胴体に浮き輪を装着してしまったがために、思い描いた状態になれなかった。私は、どうすれば「泡の上に乗っかっている」状態になれるかと、いろいろと姿勢を入れ替えてみた。足をもっと上に上げればよいのかと思い、上体を思いきりうしろにそらしてみたところ、シャンプーでヌルヌルになっていたバスタブの壁面がつるりと滑り、私はそのまま、浮き輪ごと180度ひっくりかえってしまった。上半身は水の中、浮き輪から下半身がにょっきりと上に突き出している状態、すなわち「すけきよ状態」である。

浮き輪の浮力とバスタブ内の狭さのため、私は全く身動きが取れなかった。シンクロナイズドスイミングのように足をバタバタさせる私の姿を見て、隣の兄弟がバカ笑いしているのが聞こえる。息が苦しい。シャンプー入りの水をしこたま飲んでしまい、あまりのマズさにオエッとなってよけいに苦しい。バカ笑い兄弟の横でもがく私。必死に何度もエビ反を繰り返すうち、やっとバスタブごと横倒しになって脱出することができたが、バスタブは倒れた拍子に庭石に激突し、ヒビが入ってしまった。それを見た隣の兄弟は、「よくもうちのプールを壊したな」といって怒り、一方私は「そもそもこんなくだらない遊びを思いつくほうが悪いのだ」といって譲らず、お互いの友情にもヒビが入ってしまったのであった。(おそまつ)


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