連載エッセイ「日々の徒然」

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◎第19回(2001/4/30)

すけきよ(その2)

高橋 香緒里
とある結婚式での話。

披露宴に先だって行われたお式は、神前式であったが、用意された部屋はけっこう狭かった。上座にあたる場所に神主さんと巫女さんが立ち、その向かいに新郎新婦が立つ。両家の親族は、両側の壁に沿って並べられた椅子の前に立っていた。

神前式であるということなので、当然、調度品はすべて和モノで統一されていた。椅子もすべて、大河ドラマ等で、戦の陣中のシーン等で武将が座っているような、木の足をバッテン状に組み合わせて布を張った非常に小さいもので、痩せ型の人でもお尻が余ってしまうだろうというくらいの大きさ(小ささ、というべきか)であった。なおかつ、親族の座る位置のそれはなぜか、一列全部が紐でつながれていた。記憶によれば、一列につき15個はつながっていたと思う。そんな小さい椅子をそんなにたくさん、それも隙間なくつなぐ必然性が不明である。片付けが楽だからだろうか。とにかく、その椅子はとても座りづらそうであった。

式は順調に進み、御払い、祝詞その他の段取りをすませ、三三九度の前に、神主さんによるお言葉があるとのことで、全員着席するよう指示された。私たちが足元に気を付けながらおそるおそる座ろうとしたそのとき、新郎側の親族の列のほうから突然、

  どてーん

という音がした。

何事かと思い見ると、そこには、袴、留袖、スーツと、3人分の足が6本、天井に向かってにょっきりと……椅子に座り損なった新郎の父と、その巻き添えを食った新郎の母と弟が、3人揃ってひっくりかえっていたのである。すけきよ3連発である。足の伸び具合といい開き具合といい揃い方といい、あまりに見事なすけきよぶりに、思わず吹き出すバイトの巫女さん。うつむいて咳払いで笑いをごまかす神主さん。眉毛のつりあがった新婦。新婦の顔色をうかがって笑うに笑えない新郎……。その光景はまるで、ドリフのコントのようであった。

その後はというと、バイトの巫女さんの笑いがいつまでも止まらず(無理もなかろう)、段取りは忘れるわ、三三九度の御酒はこぼすわで、途中神主さんに小声で叱られたりしており、新婦にとって一生に一度の結婚式はまったく台無しであった。

確かビデオに撮っていたはずであるが、以降、関係者の間では、かの式について言及することはタブーとなっており、その行方は杳として知れない。


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