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Intermission:新しいバストランペットの提案 〜いやはやこれは妄想か?〜野口 洋隆
この数年来、筆者が考えている楽器がある。 ● それは、C管のバストランペットの特別仕様である。 最初に脇道に逸れたことを書いておくが、このようなことを考えていたところ、ピストンクラブのW氏が自身のWeb日記にこんなことを書いているのを発見してしまった。 > C管の4番ピストン付きの楽器があればいい。 むむむ。このままこの稿を書き進めると、筆者がW氏からアイディアを取ったみたいになってしまうが、まあそれでも構わない。一応言っておくと、W氏の発想と似たような点(音域のつながりとか)もあるのだが、そのほかにも、「トランペット・アンサンブルにおけるバストランペットの在り方」を考えている中で、かなりの部分経験に即して浮かんできたものなのである。 ポイントは、「C管」というところと「特別仕様」というところである。 まず、C管である理由について。 (1)楽譜がinCである。 トロンボーン吹きからのコンバートで考えると、へ音記号の楽譜はinCで記されるのであり、C管であればそのまま読める。 (2)重量の問題。 後で特別仕様のところで触れるが、この楽器には4番ピストンの装着を考えている。バストランペットは、ただでさえ金属の分量が多く重いものであるため、B♭管にして4番ピストンとそれに見合う長さの管をつけると、相当の重量になってしまう。それを防ぐため、若干なりとも材料の金属を減らすことが出来るようC管とする。 (3)フラット系の楽譜ばかりではない。 ピストンクラブでは、多彩な種類の楽器が取り揃えられた結果、やる曲の調性について必ずしもフラット系に捕らわれなくなっている。どんな調にもニュートラルに対応するには、C管が望ましい。 (4)高い音の出しやすさ。 また、ピストンクラブでバストランペットに求められる音域も、相当に広い。相対的な音域の低さから、ベースパート等もっとも低い音を担当する一方で、普通のトランペットの1本として扱われ高い音を出させられることも多い。筆者以外のアレンジャーはトランペット吹きなので、トランペットで出る高さの音は、絶対的に同じくらいの労力をもってすればバストランペットでも出るように考えている節がある。これに対応するため、若干高めのC管という選択はメリットがあろう。 筆者は、前稿で「C管のトロンボーンがあったらなあ」という意味のことを書いたがYamahaが作ってしまった。正しくは、C管のトロンボーンではなく、「Cバルブ付きのトロンボーン」なのであるが。白状すると、まだ家庭崩壊に踏み出す勇気はなく、入手は控えている。しかし、Yamahaにしては非常に鋭いアイディアで、従来のような「真似モノ」ではない、立派な製品だと筆者が思う。 売れるかどうかは分からない。日本では邪道として受け容れられず、欧米で受けてから日本で再評価される、とかなるかも知れない。さすがにYamahaも今までにない革新的なものなので、スチューデント・モデルというコンセプトにくるんで世に問うているが。 なお、(4)で述べたように、トランペット吹きは、例えばトランペットのチューニングのB♭と同じ高さの音をバストランペットで出すには、普通のトランペットの場合と同じ苦労で出るものだと考えているようだ。 とんでもない。 何度も述べているように(どこで?)、管長が2倍でちょうど1オクターブ下の楽器なのだから、トランペットのチューニングのB♭と同じ高さの音は「ハイB♭」なのである。 トランペット吹きからすると、バストランペットというのは、普通のトランペットを、音域を下まで出るように伸ばした楽器だと思っているらしい。確かに、名前からすればそうなのだが、筆者の感覚では、「下へ伸ばした」のではなくて、「下へシフトした」楽器なのである。 すなわち、高い音の出なささ加減も下へ下がってくるはずなのだ。 ピストンのアレンジャーの方々(くどいようだが筆者以外の)も、頭では分かっているようなのだが、感覚としてそう思っていない向きが感じられると言ったら言い過ぎか。 などと偉そうなコトを書いている筆者も、ホントのところのテューバの音域など知らずに五線を埋めることもあるので、説得力はない。 新楽器に話を戻して、「特別仕様」についてであるが、次のようなことを考えている。 (1)4番ピストンを付ける。 筆者が現在所有する2本のバストランペット(B♭管)のいずれも、普通のトランペットとは違って、3番管にトリガーが付いていない。 ご存知の方には恐縮だが、トランペットでは、特に1+3番のCとか1+2+3番のHの音を調節するために、3番管にトリガーというものが付いていて、これを操作することで3番管の長さを若干伸ばせるようになっている。なぜ最初から長くしておかないかというと、例えば2+3番のD♭とかでは、その長さでは長すぎて、低くなってしまうからである。 バストランペットでは、構造上取り付けられないのか、3番管を動かせるようにはなっていない。代わりに、1番管が動かせるようになっているので、筆者は、CとかHとか出すときは、左手の親指で1番管のトリガーをびにょ〜んと伸ばしているのである(注:余裕のあるテンポのときだけ)。 4番ピストンというのは、ユーフォニウムの4番管、ピッコロトランペットの4番管などと同じく、1+3番と同じ(というか若干長め)の長さを確保するものを考えている。 トロンボーンで言えば、F管と同じである。 そして、これを3本のピストンとは別個に、左手の人差し指で押せるように、3本のピストンと重ねるように斜めに取り付けるというのが、筆者のアイディアである。 ユーフォニウムなどでは、4番ピストンを楽器を抱えて持つ左手で操作できるよう、変なところにぴょこっと1個だけ付いているものがあるが、それの応用である。 左手の人差し指で操作出来るようにというのは、後にも述べるが、バストランペットは重く、どのように楽器を支えるのか、というのが大きな課題であることからくる。ある程度の力を入れてホールドして、かつ身体全体のイメージとしてはリラックスして吹ける、という状態のためには、左手の小指を中心に楽器をグリップするのが最も良いのではないか、と筆者は考えている。 これは、矢口高雄の名著『釣りキチ三平』において、正しい釣り竿の持ち方として描写されていたのをヒントに筆者が考えたものである(半分本当)。 右手の小指で押さないのは、筆者の不器用さでは使える右手の指は3本が限界と考えるからであり、トロンボーンとパラレルに考えると、4番ピストンはF管なわけだから、左手で操作する方が移行しやすいという理由もある。 そしてもちろん、4番ピストンがあることによってペダルの音とその上の音とのブランクが埋められるため、使える音の範囲が拡がり、殊にアレンジにおいての扱いやすさが格段に増すことが期待できる。 ただし、1+2+3+4番で出るはずのD♭は、トリガーを相当伸ばさないとならなず、また当たりにくく鳴りにくい音になることが予想され、これが弱点になるとは考えられる。しかし、今のままでは出るはずのない音なので、悩まないことにする。 あと、音程も良くなる。といいな(奏者次第と言えよう)。 (2)シルバーの楽器にする。 最近はクラシックのトロンボーン奏者でも銀ベルを使う人が出てきたが、十数年前には考えられなかった。 筆者の先輩の一人は、大学入学祝いに買ってもらったK社の銀のバストロをもって大学オケに乗り込んだそうだが、これが「笑い話として」語られている。筆者は現物を見たことはないので、何とも言えないが、何故笑えるか、という感覚は判らないでもない。 しかし、何でこれが「笑い話」なのか、理解出来る人は少ないであろう。 限られた世界の、限られた感覚を共有していることによってのみ、その異質さがおかしいのであって、外の世界からすると、その異質さを感じる感性の方がおかしい可能性も十分高い。 このことからも分かるように、トロンボーンの世界では、銀はまだまだ少数派なのであるが、トランペットの世界では、銀は当たり前である。 筆者が中学生のとき、同級のトランペット吹きがマイ楽器を買って、筆者は非常に羨ましく思ったのだが、彼の楽器もYamahaの銀色の楽器であった。かれこれ20年も昔のことである。 ピストンクラブでも、B♭管、すなわち「普通の」トランペットの多くは銀色である。これに合わせるために、バストランペットもシルバーにすることを考えているのである。 ちなみに、現在のバストランペットは、ゴールドブラスで、やや赤味がかかっている。 これはこれで気に入っている。バストランペットは、楽器屋で何本も試奏していいのを選ぶ、といったことはほとんど出来ないと思われるが、今使用しているBachの楽器もその時1本だけはいってきたものであり、ベルの色に選択の余地はなかった。しかも、ホームページ等を見る限り、イエローとシルバーの2種しかラインナップされておらず、店の料金表にもゴールドブラスは掲載されていなかったため、筆者がこの楽器を購入する際、店では値段が分からず、どこぞへ電話などかけて聞いていたりしたのだった。筆者は、財布を握りしめたまま、「黄色と銀色と足して2で割ったくらいでしょ」と思ったものだが、果たしてその通りであった。 今のBachもきれいな色で好きなのだが、やはり銀色が欲しいのである。おいおい、ほかにも音色とか鳴りとかヌケとか、いろいろ理由があるだろ、とおっしゃる方があるかも知れない。 筆者が銀にしたい理由は、正直申し上げて、ただ次の1点である。 ● シルバーはカッコいい。 (3)ベルの角度を上向きに曲げる。 ガレスピー・モデルである。 ラッパの人たちは「ガレスピー」と言っているので、ディジー・ガレスピーが元祖なのだろう(これもいつかちゃんと調べてみたい)。トロンボーンでは、東京スカパラダイスオーケストラの北原さんが、ベルを上向きにした楽器を吹いていて、カッコいい。 筆者がガレスピー・モデルにしようというのは、今度は銀色にしたいのと違って、必ずしもカッコ重視というわけではないのだ。 バストランペットは、重たい。普通のトランペットの倍以上の量の金属を用いており、その分の重量がある。これを体の前方に浮かせて構えるのであるから、感じる重さも相当のものである。 筆者も、最近は慣れてきたが、最初にバストランペットを吹いたときは、そのバランスの悪さに閉口したものだ。 トロンボーンは、バストランペットよりも重いが、構え方が肩に担ぐような感じで前後のバランスが取れるため、感じる重さはそんなに大したことはない。 ところが、バストランペットはすべての重量を体の前方に位置させるため、非常に重く感じる。 従って、バストランペットを構えていると、どうしてもベルの位置が下がってきてしまう。 加えて、バストランペットは普通のトランペットと比べて、長い。 このことにより、仮に普通のトランペットと同じ角度で構えていたとしても、長い分ベルの位置が下にきてしまう。 これでは、カッコ悪い。音も下に行ってしまい、客席へ音の到達において不利である。 この問題の解決策として、楽器自体がベルアップしている、つまりガレスピー・モデルというものを考えたのである。 重量バランスについては、なるべく感じる重さを減らすため、4番管は手元の方へ巻くとか、いろいろ考えている。重心がなるべくマウスピース側に来た方がよいと思っている。 実は、4番管を備えたC管のバストランペットというものは、市販されている。 ドイツのヨコのバストランペットが、それである。中にはB♭-Cコンバーティブルなものもある。筆者が知る限り、トリガーも完備し、音程がバッチリ取れる作りになっている。 しかも、ヨコラッパの構え方は、左手の掌に楽器を乗せるようにするため、普通に構えてもベルが高い位置に来る。 ● 惜しむらくは、ロータリーなのである。 |
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